年をとると……
年を重ねると、子どもの頃や若かった頃の感性が失われることを嘆くことがあります。でも、年を重ねることで、これまでわからなかったことがわかるようになって、ああ年をとるというのはこういうことだったのかとしみじみ思うことがあります。
わたしは若いころの方が柔軟性に乏しく、自分の中にどんどん沁み込んでくるものがある一方で、まったく理解できず、無関心な領域が数多くあったように思います。若いころの方が好奇心旺盛だというのは、わたしにはあまり当てはまらないかもしれません。自分に関わるごくせまい範囲のことにしか興味が持てず、例えばほかの生物や自然といったものにはまったく関心がありませんでした。
それがどういうわけか、年をとると、生きているものすべてに興味を持つようになってきました。
たとえば人間について言えば、何十年も同じ仕事をひたすらやり続けている職人のすごさがわかるようになりました。また、父が数十年、会社員として勤め上げたことも、母が毎日欠かさず家事をこなしてきたことも尊敬するようになりました。さらには、長生きしている人は、それだけで立派だと思うようになりました。
若かった頃にはとても考えられないことでした。ついこの前までわかりませんでした。つい最近です。淡々と毎日を生きるということのすごさを感じるのです。
その人がどんな人かということに関わらず、ひたむきに生きる姿には心動かされます。そうなってくると、どんなふうに生きるかといった細かいことがあまり気にならなくなってきます。
というのはちょっとかっこつけ過ぎ……。毎日の些細なことに心を痛め、思い悩み、欲張りになるのは相変わらずですが、時間がたつと、何となく大したことなかったと深呼吸できるところまで立ち戻る場所ができたような気がします。ただ逃避がうまくなっただけかもしれませんが。
「年をとるのも悪いことばかりではない」と諸先輩が語っていたことに気がつけばうなずいているわたしです。